「ランニングって、朝走るのが一番良いんですよね?」

ランニングを始めようとしている人から、よくこんな質問を受けます。確かに、早朝にランニングウェアを着て颯爽と走る人の姿は、なんだか健康的で「正しい」イメージがありますよね。SNSを開けば、朝日をバックに走る写真が溢れています。

でも、ちょっと待ってください。

あなたは今、「どの時間帯に走るべきか」を調べるために、この記事にたどり着いたはずです。もしかしたら、他にも何記事か読んで、「朝が良い理由」「夜が良い理由」を比較しているかもしれません。

その時間、もう走り終えていたかもしれないのに。

「正解探し」という名の、行動しない言い訳

朝歩く男性の後ろ姿

私もかつて、あなたと同じでした。

健康診断の結果を見て、「これはまずい」と焦りました。尿酸値が高く、医師からは「このままだと痛風になりますよ」と警告を受けました。運動しなきゃ、と決意しました。

そして最初にしたことは、「ランニング 時間帯 おすすめ」で検索することでした。

朝走れば代謝が上がる。夜走れば睡眠の質が良くなる。昼休みに走れば仕事の効率が上がる。どの記事にも、もっともらしい理由が書いてありました。でも、読めば読むほど、どれが「自分にとっての正解」なのか分からなくなっていきました。

結局、「もう少し調べてから始めよう」と思い、その日は走りませんでした。次の日も、その次の日も。

気づけば、1週間が過ぎていました。

「どうやって走るか」に囚われると、「走る」という行動そのものがどんどん後回しになっていきます。これが、三日坊主どころか「一日坊主」にすらならない人の典型的なパターンです。

あなたは今、その罠にはまりかけていないでしょうか?

ランニングに関する真実:「どれも正解」なんです

笑顔のランナー

ここで、はっきり言っておきたいと思います。

朝走る、昼休みに走る、夜走る。どれも正解です。

そして同時に、どれも不正解になりえます。

なぜなら、正解は「あなた次第」だからです。

朝型人間もいれば夜型人間もいます。早起きが苦痛な人に「朝ランが最高!」と言っても意味がありません。仕事が夜遅くまである人に「夕方走りましょう」と言っても無理な話です。

行動する前に「どれが正解か」を判断しようとすると、判断基準が必然的に「他人の意見」や「一般論」になってしまいます。でも、他人の体験談は、あくまで他人の人生です。あなたの生活リズム、仕事の内容、体質、性格、全てが異なります。

大袈裟に言えば、正解を外から探すのは、他人の人生を歩もうとしているようなものです。

一方で、実際に行動した後の判断は違います。判断基準が「自分の経験値」になります。「朝走ったら眠くて仕事にならなかった」「夜走ったら気持ちよく眠れた」「昼休みに走ったらランチ時間が足りなくてストレスだった」。

これらは全て、自分で体験したからこそ得られる「生きた情報」です。こっちの方が良い、これは合わない、次はこれを試そう。比較対象がすべて自分事なので、とても納得感があります。そして、この納得感こそが、習慣化への最短ルートなのです。

私の場合:「ストレス」を判断基準にした理由

参考までに、私の走る時間帯の決め方を紹介します。

私は基本的に朝走ります。でも、午前中に大事な仕事やミーティングがある日は、夜に走ります。

なぜでしょうか?

理由はシンプルです。その日の最も重要なタスクが午前にある場合、その前に行うあらゆるアクションが「ストレス」になることに気づいたからです。

「走らなきゃ」「でも走ったら仕事の準備時間が減る」「遅刻したらどうしよう」。こんな思考がグルグル回る中でのランニングは、全く楽しくありません。むしろ、ランニング自体が負担になり、「やっぱり走るのやめようかな」という気持ちが芽生えてしまいます。

ランニングを習慣化したいのに、ランニングを嫌いになってしまっては元も子もありません。だから、プレッシャーを感じる日は夜に回します。

この「ストレスになるかどうか」という判断基準は、実際に何度も朝走って、時には失敗して、自分の心の動きを観察したからこそ見つけられたものです。

これが、「自分を知る」ということです。

あなたも、この感覚を持ってみてください。朝走って「すっきりした!」と思えるのか、それとも「眠い、きつい」と感じるのか。夜走って「ぐっすり眠れた」のか、「興奮して眠れなくなった」のか。

その答えは、検索しても出てきません。あなたの体と心だけが知っています。

「いつ走るか」よりも大事なこと

さて、ここまで読んで、こう思っているかもしれません。

「理屈は分かった。でも、どうしても一歩が踏み出せないんです」

分かります。その気持ち、本当によく分かります。

ランニングを習慣化するには、スケジュール管理や仕事との両立をうまくやろうと考えるでしょう。でも、おそらくどれだけ頭の中で計画を練っても、しっくりくる答えは出ません。

なぜなら、今の生活に「ランニング」を単純に積み足すのは、ほぼ不可能だからです。

あなたの一日は、既にいっぱいです。仕事、食事、家族との時間、少しの娯楽。どこに「ランニング30分」を差し込めばいいのか、考えれば考えるほど分からなくなります。

そして、その「迷い」は、とてつもない時間の浪費になります。

「考える」と「迷う」は違います。「考える」なら、仮説を立てて行動に挑めます。でも「迷い」は、ただダラダラと時間を溶かしていくだけです。

「捨てる」ことから始めよう

駆け抜ける男子

では、どうすればいいのでしょうか?

答えはシンプルです。何かを捨てることです。

今の24時間を見直して、一つ捨ててみる。そこから、ランニング習慣はスタートします。

気づいたらテレビをダラダラ見ている時間。スマホを触っていたら1時間経っていた時間。「あと10分だけ」と決めたのに止まらないゲームの時間。

直視すれば、こういう時間は必ずあるはずです。

誤解しないでください。これらを全てゼロにしろと言っているのではありません。完全に排除する必要もありません。ただ、そのうちの5分だけ、ランニングに費やしてみるのはどうでしょうか?

たった5分でいいんです。

5分走って帰ってくる。それだけで、「今日、走った」という事実が手に入ります。この小さな達成感を脳に覚え込ませることができたら、30分に伸ばすのはいとも簡単です。

なぜなら、脳は「走ること=気持ちいい」と認識し始めるからです。最初の5分は苦痛でも、繰り返せば、脳が騙されていきます。そして、気づけば習慣になっています。

自分の24時間を見直す作業は、まさに「自分を知る」第一歩です。自分が何に時間を使っているのか、何が本当に大切で、何が惰性でやっているだけなのか。それを知ることこそが、習慣化への近道になります。

「捨てる」という行為は、精神衛生上にも非常に価値があります。無駄なものを手放すと、心が軽くなります。そして、その軽さが、走り出すための余白を生むのです。

走る時間帯に迷っているあなたへ

時計に向かって走るランナー

もう一度、最初の質問に戻りましょう。

「朝走る、昼休みに走る、夜走る。結局どれが良い?」

答えは、「あなたが実際に走ってみないと分からない」です。

朝が合う人もいれば、夜が合う人もいます。昼休みがベストな人だっています。でも、それは他人が教えてくれることじゃありません。自分で体験して、自分で感じて、自分で決めることです。

自分を知ってから答えをあてにいくような行動は、遠回りに見えて、実は一番近いです。

だから、今日から「正解探し」をやめましょう。検索窓を閉じて、とりあえず5分だけ外に出てみましょう。

走る時間帯なんて、走り始めてから決めればいいんです。

あなたに必要なのは、完璧な計画じゃありません。ただ、最初の一歩を踏み出す勇気だけです。

さあ、走りましょう。今日の5分が、半年後の習慣になります。